リスクと公共性研究会

第10回研究会

日時: 2009年6月13日(土)13:30−16:30
場所: 京都大学稲盛財団記念館3階小会議室T

※稲森財団記念館(地図)は、川端通沿い(近衛通角)にあります。京阪電車の神宮丸太町駅から北へ徒歩4分。

【発表1】

「エチオピア西南部の高齢者の生活実践―経過報告と今後の課題」 野口真理子(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)

要旨:各国で高齢者福祉に対する関心はここ数年で急速に高まっているが、「高齢者」に焦点を当てた研究のほとんどは、「先進国」を中心とした、すでに高齢社会を迎えた地域における高齢者福祉施設などを対象にしたものや、質問表などを用いた定量的な調査がおこなわれることが多い。未だ高齢化社会を迎えていないといわれるアフリカにおいては、アフリカに暮らす老人の生活の実態を把握するような事例研究の積み重ねはほとんどなされていない。本研究は、特にエチオピア西南部の農村に暮らす高齢者に着目し、彼らの多様な生活実践の実態を細やかに描写すると共に、彼らの周囲の人びととの関係をみることによって、地域社会における制度や福祉にとらわれない「ケア」の可能性について検討することを目的としている。

なお、本発表は、2008年10月〜12月、2009年3月におこなった現地調査の報告と、次回調査(2009年7月〜2010年1月)に向けた調査計画を中心に発表する。

【発表2】

「アフリカにおける顧みられない熱帯病問題―ガーナ共和国・ブルーリ潰瘍の事例を中心に」 新山智基(「日本学術振興会特別研究員/立命館大学大学院先端総合学術研究科)

要旨:  人類の歴史は感染症との闘いとも言われている。近年では、HIV /エイズやマラリア、結核など多くの感染症が依然として猛威を振るい続け、エボラ出血熱などすでに克服されたと考えられてきた感染症の再興が確認され、世界的な対策が求められているコレラやデング熱なども無視できない状態にある。本報告で取り上げる「顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases)」問題も潜在的な人類全体への脅威となる可能性が高い。

顧みられない熱帯病とは、14の疾病からなり、約10億人が感染し、年間で約50万人が死亡している。エイズやマラリア、結核などと比べると死亡率は低く、優先的な取り組みは取られてこなかった。その背景には、差別や迫害などの歴史的・社会的な問題や、医療や薬品などの経済市場や研究・開発分野からも利益を生まないため、顧みられてこなかったと考えられる。顧みられない熱帯病のなかでも、「ブルーリ潰瘍(Buruli ulcer)」問題は、感染源、感染経路、治療薬などの解明が不十分であり、困難な状況に局面しているといえる。

ブルーリ潰瘍とは、西アフリカや東南アジアなどの熱帯・亜熱帯地域を含む32の国と地域から症例が報告されている。発病の原因となる病原菌はマイコバクテリウム・アルセランス(Mycobacterium Ulcerans)であることがすでに解明されているものの、感染源や感染経路などに関しては、未だ研究段階にあり、完全には解明されてない。治療に関する研究は、抗生物質の研究が進められ、早期発見されたものは潰瘍が縮小することが明らかとなっている。しかし、経済的・社会的な理由から早期発見・早期治療が遅れ、重症となるケースが多く、外科的な治療法に頼らざるを得ない状況である。発見を困難にさせている原因としては、経済的・社会的、また宗教的な理由で医療にかかれないことに加え、医師の知識不足から患者を特定できないことや、インフラの不整備から医療施設を使用できないなど多くの問題が点在している。また、医療を受けることができても、治療後には肉体的・精神的な痛みを伴うケースや治療費の支払いが行えないなど、多くの困難が待ち構えている。

このような問題には国際機関や各国政府をはじめ、国際NGOの活動や取り組みが不可欠である。ブルーリ潰瘍が顧みられる状態になるきっかけとなったのは、1998年のグローバルブルーリ潰瘍イニシアティブ(Global Buruli Ulcer Initiative)の発足である。この発足により、WHOや政府、NGOによる国家レベルから地域レベルに至るまでの問題の発見や認識、解決に向けた対策が加速する。また、ブルーリ潰瘍問題を提起したこの時期から、問題への取り組み方に多様なアプローチによる支援が必要であるとの認識は、WHOにおいて一貫して存在していた。患者数を削減するためには、治療や専門家育成、教育などの支援のみならず、地域の罹病率や社会経済的影響を緩和する必要性があるだろう。

本報告では、顧みられない熱帯病・ブルーリ潰瘍問題について現状を把握すると共に、WHOや政府、国際NGOの対策・援助の実態をガーナ共和国の事例をもとに考察する。

» 研究会のお知らせと報告

掲載日: 2009年5月18日 | 作成者: 西真如