2004/3/9

220万人の再定住計画 - 食糧自給の切り札?
Rural resettlement programme criticised (IRIN)

解説:
エチオピアの食糧問題と「再定住」

エチオピアは毎年のように食糧支援を受けいれていますが、じつは食糧が不足する地域というのは、ある程度予測することができます。それは、雨が比較的少ない地域、土壌の浸食が著しい地域、人口密度の高い地域などで、干ばつの被害が起きやすいからです。これが脆弱性と呼ばれる概念です。WFPなどの援助機関は、干ばつ被害への脆弱性 (vulnerability) と食糧不足の危険性 (risk) を地域ごとに分析しています。

"Risk and vulnerability in Ethiopia"
http://famine.tufts.edu/pdf/risk_ethiopia.pdf (pdf file, 2.8 mb)

こうした仕組みにもとづいて、エチオピアの食糧不足に対する警告が発表され、近年では毎年70万トンにのぼる穀物援助がおこなわれてきました。これが早期警報システム (early warning system) で、飢餓を防ぐ手段としては、非常に優れた仕組みです。

しかし干ばつへの脆弱性が改善されない限り、食糧不足そのものは解決されません。そこでエチオピア連邦政府は、脆弱性の高い地域(雨が比較的少ない地域、土壌の浸食が著しい地域、人口密度の高い地域)から低い地域へ、多くの農民を移住させる計画を策定しています。これが再定住計画 (resettlement plan) です。

再定住計画に対する批判
しかし土地制度の専門家であるDessalegn Rahmato氏(社会研究フォーラム代表)は再定住計画に反対しています。この計画は「複雑で、費用がかかり、しかも最終的には、無駄な努力に終わる」、つまり食糧問題を解決しないだろうというのが、彼の主張です。

確かに220万人もの農民を再定住させるのは簡単ではありません。トラクターで農地を切り開き、バスで農民を連れて来るのは簡単ですが、新しい農地に適した作物と栽培法を見つけ、道路や市場を整備し、学校や保健所を運営するなど、多くの課題を解決しながら「新しいコミュニティをつくる」ためには、膨大な人材と資源が必要なように思われます。

再定住計画と民族問題
じつはエチオピア政府は、過去にも再定住計画を実施しようとして、失敗しています。これは1991年まで続いた軍事政権がおこなったもので、飢饉が発生した地域の農民を、人口の少ない地域へ強制的に移住させました。これは、移住させられる農民にとっては強制連行であり、移住者を受けいれる地域の人たちにとっては、土地を取りあげられることを意味したため、国際社会の非難を浴び、国内の反政府運動も高まって、軍事政権が崩壊する原因のひとつになったと言われています。

連邦政府が推進する新しい再定住計画は、(1) 移住に同意した農民だけを再定住させることと、(2) 同じ民族の住む土地に再定住させることを約束して、アメリカ政府をはじめ国際社会の支持を得ました。

「同じ民族」というのはある意味、賢いやり方です。というのは、たとえばアムハラ民族の農民をオロモ民族の土地に移住させると、オロモ解放戦線のような反政府組織が「連邦政府はオロモの土地を奪い、アムハラに与えている」と非難する口実を与えることになるからです。再定住計画が民族問題と結びつく危険を、連邦政府はよく知っています。

とはいえ、移住者を受けいれる地域の人たちにとっては、移住者がどんな言葉を話す人たちであろうが、土地を「取りあげられる」ことに変わりはありません。受けいれ住民と移住者とのあいだに、農地をめぐる争いが起こる可能性は十分にあります。

議論の欠落
Dessalegn氏は、農村から農村への再定住計画を実施するよりも、農村から都市への人口移動を促進する政策のほうが有効だと考えています。確かに経済的に豊かな国は、日本を含めて、農村から都市への大規模な人口移動を経験してきました。ただしエチオピアは、多くの貧困国と同じように都市の失業率が非常に高いので、都市の雇用が増える見込みがないのなら、やはり再定住を考えねばならない、と反論することもできます。

Dessalegn氏がいちばん問題にしているのは、220万人もの人びとの生活に根本的な影響を与える再定住計画が、連邦政府と一部の援助機関との合意によって、事務的に執行されてしまいそうなことです。少数の政治家と官僚、専門家による決定ではなく、ひろく農村や市民社会で議論を重ねながら、食糧問題を解決してゆくのでなければ、前の軍事政権とおなじ轍を踏むことにならないか、というのが彼のメッセージであって、都市への移住という提案は、議論の糸口に過ぎません。(西)

過去のニュースと解説:
エチオピアは大豊作 - しかし720万人が食糧援助を待っている