2006年10月01日

ロスト・イン・ラ・マンチャ [映画]

『グリム兄弟』のテリー・ギリアム監督が、2000年秋に撮影を始めていた『The Man Who Killed Don Quixote(ドン・キホーテを殺した男)』は、制作費50億円の大作となるはずでした。

ところがスペインで撮影が始まると、スタッフは突然の洪水で機材を失い、ドン・キホーテを演じるジャン・ロシュフォールは、腰痛で馬に乗れなくなります。度重なる不幸によって、その映画が撮影中止に追い込まれるまでの、監督やスタッフ、出演者の表情を追ったドキュメンタリー作品が『ロスト・イン・ラ・マンチャ』です。

この作品は、もともと『ドン・キホーテを殺した男』のメイキング映像として撮影されていたもので、要するに本編が完成していれば、DVDのおまけ映像に収まるはずのものでした。その微妙な生い立ちを反映して、作品への反応もさまざまなようです。

この作品について書かれたものをインターネット上で検索してみると「ジョニー・デップが出演していると思って観たら、変なメイキング映像で(しかもデップの映像はわずかで)がっかりした」という、まことに可愛らしい評もありますが、さらに深刻になって、「こんな手法は許せない」と激怒している人もいます。

完成しなかった映画についての、言い訳がましいインタビューを延々と見せられるのは耐え難い。失敗は失敗であり、そこには何の価値もないというわけです。

そうかと思うと、「プロジェクトの失敗」という経験そのものに、共感を禁じえない人たちもいるようです。さすがに制作費50億円のプロジェクトに手を染めたことのある人は少ないでしょうが、規模の違いを無視すれば、献身的な努力と、費やされた資金にもかかわらず何の成果も得られないという経験は、けっこう普遍的かも知れません。

どんな時にも失敗は避けられないというのは、確かに重要な教訓です。ただしこの作品は、単に失敗への慰めとして存在しているわけではありません。それどころか、ふつうに完成した映画以上のことを表現していると考えることすらできます。

ロスト・イン・ラ・マンチャ(=ラ・マンチャで途方に暮れる)という主題はもちろん、撮影機材や主演俳優を失って呆然としているテリー・ギリアムたちの姿に重なるものです。

ラ・マンチャはスペインのラ・マンチャ地方、つまりセルバンテスの小説『ドン・キホーテ(Don Quixote de la Mancha)』の舞台であり、したがってテリー・ギリアムの『ドン・キホーテを殺した男』の舞台でもあります。

ギリアム監督は、自らが構想した大作に挑んで破れますが、その姿は風車に突撃するドン・キホーテのようです。『ドン・キホーテを殺した男』の制作に失敗した監督は、『ロスト・イン・ラ・マンチャ』のなかで、自らドン・キホーテを演じるのです。

nishi makoto

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