2005年05月30日
プロジェクトXと定年離婚 [コメンタリー]
社会のため、家族のために、命を削って働いた=戦った男たちの物語に、どうして僕らは耳を傾けねばならないのか。
それは込み入った問題ですが、日本人たるもの、毎週必ず「プロジェクトX」を観て、寝る前には必ず「地上の星、地上の星」と唱えなければいけない。さもなければリストラされて首をくくったサラリーマンの亡霊に、この国は末代まで祟られるのではないか、という不安が、国民の心のどこかで育ちつつあったことは、否定できないと思うのです。
「プロジェクトX」という番組そのものが、高度成長を戦い抜いた無名戦士を、美しい物語とともに葬るという、社会をあげてのプロジェクトなのですから、「事実と違う」とか、「過剰な演出」とか言い始めたら、それは決して、特定のエピソードについての問題ではありません。
プロジェクトXの物語のなかで繰り返し現れるモチーフのひとつに、「男が自分を犠牲にして社会のために働いた=戦ったのは、実は愛する家族のためであった」というのがあります。これをぜんぶ嘘だといって片付けるには気が引けますが、他方で僕らは、物語のモチーフと、僕らが現実に知っている社会とのあいだに、おおきな隔たりがあることも知っています。
たとえば僕らの知っている社会では、毎年増えつづけてきた離婚件数が、平成16年度の統計で減少に転じました。夫の定年を待って妻が離婚を申し入れる、いわゆる「定年離婚」が減ったからだそうです。なぜここにきて定年離婚が減ったかというと、それは2007年に施行される「年金分割法」を待って離婚しようと考えている妻が多いからだ、という説が有力らしい。これを2007年問題というんだそうです。
定年離婚される夫が悪いというつもりはありません。しかし、離婚届を握り締めて2007年の到来を待つ妻は、彼女の夫が「愛する家族のために」働きつづけたと思えないのでしょう。彼女もプロジェクトXを観るかもしれないけれど、それは彼女の夫についての物語ではないのです。
nishi makoto
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