住民組織の研究?

わざわざエチオピアまで出かけて、住民組織など研究して何の役に立つんですか、と尋ねられることがあります(口に出さなくても、心の中でそう思っている人は多いでしょうね)。

こういった質問に対して、「そもそも、それが役に立つかどうかを決定する基準とは何でしょうか?」などと返答して議論を混ぜ返してしまうと、(相手を黙らせることはできるかも知れませんが)ちょっと嫌われそうな気がします。うまく説明できるかどうか不安ですが、住民組織の活動から何を学べるのか、考えるところを述べてみたいと思います。

まずエチオピアという国について少し説明しておきます。エチオピアは、世界でも最も貧しい国家のひとつだと言われています。ここでも、何を持って「貧しい」と決めつけるのかという問題はありますが、欧州諸国や日本の政府が実現してきたような、国民生活を保障する社会福祉の制度を、エチオピアの政府がほとんど持っていないのは事実です。

例えば社会保険、年金、貧困世帯への給付、あるいは地方経済を振興する公共事業や、農作物への補助金といった制度がそれにあたります。国民のなかに生じた、経済的な格差を是正する仕組みのことだと言っても良いでしょう。

さてエチオピアでは、日本と比べて圧倒的に、住民組織の活動が盛んです。住民組織は英語でcommunity-based organizations(CBOs)と呼ばれるもので、地域社会の住民が、何かの目的を達成するために、資金や労働を提供しあうことで成立している組織のことです。

例えばエチオピアでは、死者を葬るための資金や労働を提供する、葬儀講の活動が広くおこなわれています。葬儀講は死者を葬るほかに、病に伏せった仲間や火事で家が焼けた仲間に見舞金を支払うこともあります。

いわば日常生活のリスク(とりわけ死のリスク)に共同で対処するための組織だと言って良いでしょう。またグラゲ道路建設協会のように、都市住民が自ら資金をだしあって、故郷の村に数百キロメートルにおよぶ道路網と、何十もの小中学校を建設した例もあります。

以上の説明から、だいたい察して頂けると思いますが、福祉国家が実現されていないエチオピアで、住民組織の活動が盛んなのは決して偶然ではありません(といっても実際には、住民組織が実現しようとする目標と、政府の目標は異なることが多いので、住民組織の活動が、単に国家の活動を「肩代わりしている」と考えるのも間違いだと思います)。

エチオピアの人びとは、住民組織の活動に参加することによって、葬儀から道路建設に至るまで、生活上のさまざまな課題に取り組んできたわけです。

しかし住民組織で解決すると言っても、住民組織に参加する人たちの利害や立場はひとつではありません。社会的な地位や世代、エスニシティや宗教、経済的な格差やジェンダーといった要素が、人々のあいだに対立をつくりだすからです。

また、そもそも組織の活動という形態をとる以上、必ずその活動から排除される人たち(さまざまな理由で、活動に参加しない / 参加できない人たち)がいます。こうした対立や排除の問題を克服し、幅広い支持を得ることが、住民組織活動を成功させるコツなのです。

対立に満ちた社会にありながら、なお住民組織の活動が幅広い支持を得ているとき、そこには活動を持続させるための、さまざまな工夫が凝らされているはずです。少し大げさに言えば、多様な価値観やアイデンティティが交錯する社会において、民主的な社会を構築してゆくためのヒントを、そこから得ることができるかも知れないと思うのです。

ただし福祉国家の形式よりも、住民組織による解決のほうが優れていると言いたいのではありません。むしろ重要なのは、社会の対立や格差を克服する手段にはいろいろあるということ、そして私たちが思いもよらないようなやり方で、問題を克服してきた人たちもいるのだということではないでしょうか。

次の記事も読んでください: グラゲ道路建設協会の紹介

作成者 nishi makoto : 2006年09月04日 14:48

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